がなりの雷(がなりのいかずち) 第2回 

【言われたことをやるだけの、ガキの使いは要らない。】

※「がなりの雷」について、詳しくはコチラ

日報を読んでいた高橋が、商品部の豊田に声をかけた。
「卵かけご飯の醤油は、サンプル貰う交渉をしたのか?」

事の始まりは、直営レストラン『農家の台所』に、烏骨鶏の卵かけご飯のメニューが出来たこと。卵かけご飯があるなら専用の醤油を用意しようとのことで、高橋から指示があり、仕入担当の豊田が手配することになった。醤油は銘柄まで指定されていたので、豊田は言われるままに発注し、サンプル提供などの交渉はしなかった。この対応が、高橋の怒りを招いたのである。
「お前は言われたことをただやるだけのガキの使いか?」

商品を仕入れる時に、サンプル利用分を無料で付けて貰うのはよくある話だ。温泉旅館では、お土産コーナーで販売されているシャンプーや石鹸類が、風呂場に備え付けられているのを見掛けることが多い。殆どの場合、これらの備え付け分は、メーカーが無料で提供している。風呂場で実際に利用してもらうことが購買につながるからだ。

同様に考えれば、卵かけ醤油を『農家の台所』の料理に添えたり、試食してもらうことは、購買促進になるから、サンプル提供を交渉する余地はある。サンプルのみならず、日々変わる店の状況によって、交渉の可能性もまた変わるものだ。最近では『農家の台所』のメディア取材も多く、認知度が上がっているが、知名度の高さも武器になり得る。商人根性のある人間なら、自らが持っている「買い手の交渉力」がどの程度なのかを常に意識し、最大限に交渉に活用していくだろう。

「お前らは全ての行動がそうなんだよ。なんで付加価値をつけようと考えないんだ?」
そのまま、高橋の怒りは商品部全体に広げられた。野菜にこだわる国立ファームにとって、仕入を担当する商品部は生命線とも言える重要な部署だが、他部署のニーズに応え切れていないのが現状だ。今後の八百屋展開も睨み、商品部全体の抜本的な業務改善が急務となっている。

どうやって仕事に付加価値をつけるか?どうやって同期よりも上のことをするか?高橋は、常にそれを考えて仕事をして来たのであり、従業員にも同様の取り組み方を期待している。しかし、商品部には競い合うようなライバル関係もない。自分の仕事のレベルが低くても、周りも同程度だからといって、安心してしまっているのが今の商品部だと、高橋は指摘する。

高橋には経営者としての経験があるから、満足の行く働きをしていない者でも、一時の感情でクビにはせずに、様子を見ている。けれど、新たな人材が加わり選択肢が出来た時には、付加価値を高めようとしない人間は入れ替えていくことになる。説教されている今のうちに変わろうとしない人間に、この会社での将来はない。

逆に言えば、付加価値を高められない人間は、代替可能な歯車でしかないから、組織の中で安心できない。他人が出来ないことを出来るようになり、自分自身の付加価値を上げていくことで初めて、組織の中でのんびり働けるようになるのだ。

それでは、商品部の人間が付加価値を高めていくためには、どのようなことを目的とすべきだろうか?
バイヤーに徹することだと高橋は言う。より良いものをより安く買う、それがバイヤーの正義だ。バイヤーとして商売をするためには、徹底的にお客様のニーズに耳を傾けるべきで、そうなれば生産者様との交渉は厳しいものになる。

もちろん、国立ファーム全体としての理念は農業改革であり、そのためには、生産者と消費者双方が満足する方向を考える必要がある。しかし、各部署が抽象的な理念を唱えてばかりいれば、実際には何も成し遂げることが出来ない。各部署が自らの業務に集中し、結果を出して初めて、会社は利益を出せる。企業の存続には利益を出すことが不可欠であり、成長し、力を持てるようになった時に初めて、理念を実現出来るようになる。

今後、商品部は、安く買うための適正な発注量を探りながら、価格交渉を有利に展開することに集中する。バイヤーとして力を付け、消費者の理解を得るのが当面の目標だ。商品部がバイヤー業務に徹して結果を出せば、取引先のメリットは会社全体として考えていく。

お客様のために1円でも安く買おうとする、それがバイヤーのプライドだ。
「毎月、売上見て価格交渉して」と、高橋から商品部に、新たな指示が課せられた。

気が優しくて、自分が一歩引いてしまうのが欠点の豊田は、
プロのバイヤーになれるだろうか?

※< 後編>は7月5日掲載予定。今回の当事者、商品部豊田へのインタビューをお届け!

※豊田が所属する商品部の動きは「八百屋ブログ」で!

(文責:広報課 但田)

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この記事へのコメント

  1. それが仕事だから、そうなるしかないね。
    気が優しいとか仕事と関係ないし、プロじゃないね。
    交渉する能力が無いだけだから、そんなに難しい問題じゃない。

    問題なのは、会社の金だから!と影で無駄遣いしたり、私用で経費を盗む輩の思考が蔓延する事だと思います。

  2. 先日、大型冷蔵庫を購入致しました。
    ヤマダ電機では158,800円(ポイント1%)でした。
    年配の男性店員に値下げ出来るか聞いたら、電卓叩くフリしながら下げられないと言われました。
    その後、同店内の陳列PCを使い『価格ドットコム』で検索したら、112,800円(送料無料)でした。

    ヤマダで冷蔵庫買ってる人は、(カワイソウダナ・・・ほんと)と思って、移るのが怖くてバカ客と目を合わせない様にそっと同店を後にしました。
    貧乏人は自ら貧乏になる方向に突き進んでいる!

    哀しい日本を見た想い出の一コマです。。。

  3. メーカーも仕入れ先も
    お互いに興味の無さが出てるよね~
    ふざけるなって
    なんで感じないの?
    それで食ってんだろ~!!!

    自分に怒りを感じないなら外れろ!!!
    この話しの着地点は、そこだね。

  4. 仕入れも大変ですよね
    農産物は生ものだし・・・

    『1円でも安く』コスト低減、利益を出すまで大切だよね
    是非、『農家もよろこぶ』コスト削減策考えてね 協力すればいろいろとアイデア出ると思いますよ~

    でも 利益が上がるようになって、経験もノウハウもためたら

    『どうやって1円でも高く仕入れられるか?』
    『どうやったら2円でも高く販売してお客さんに喜んでもらえるか?』
    そんな、バイヤーさんになって欲しいとも思います

    『たまの野菜物語り』~多摩の美味しい野菜100選~
    仲間と進めています
    ・有栽培レベル以上 ・種採りから多摩産 ・食味最優先の品種選び
    野菜というものだけでなく、一品一品に『物語り』があります
    食べるだけでなく、その『物語り』も味わっていただこう
    という企画です お楽しみに~
    ただし、まあ、5年くらい先のことになるかな?
    どんなに早くても3年先
    待っててね

  5. 御社の生産部と商品部の現在の力関係、これからの方向性、ものすごく興味があります。(社外秘でしょうけど。)
    作って売るビジネスと仕入れて売るビジネス、両輪がうまく回り出すと面白いことになりそうですね。

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